IMC株式会社  池田医業経営研究所

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とことん地域住民に寄り添う医療機関

国内のほとんどの自治体が人口減少、少子高齢化、財政難の課題で苦しむ状況下で、兵庫県明石市は近年、子育て支援による子ども増・人口増・税収増で注目されています。

それは、なぜなのか? 明石市の施政方針は「こどもを核としたまちづくり」、「誰にもやさしいまちづくり」。どこの自治体も掲げているような聞こえのよいスローガンですが、他の自治体との大きな違いは「とことん人に寄り添う行政の姿勢」のようです。

明石市長によれば、政府をはじめとした日本の自治体の多くは、行政サービスの対象となる標準家族を「勤労する父親、心優しい専業主婦の母親、健康に育つ二人の子ども」と考えています。一方で明石市長が考える標準家族は、「父親のDVで母親は心を病み、パートを辞めさせられそうで、子どもはネグレクトぎみで不登校、奥には認知症の祖母がいて借金を抱えている貧困家庭」です。現代の家族が抱える問題は、子育て、介護、家計、就労など複数の問題を同時に抱えていることであり、困っている家族に安心してもらうには“包括的に”問題に向き合う必要があるとのことです。

ターゲット顧客を見定め、その顧客ニーズを徹底的に調査し、そのニーズに合わせた施策を講じるのはマーケティングの基本中の基本です。住民の方を向いておらず、国や都道府県の方を向いていて、いわゆる縦割りの施策しかできない自治体が、おそらくまだまだ多いのでしょう。

 

人口減少、高齢化が進む地域がほとんどの状況下で医療機関が生き残るためには、地域共生社会づくりに貢献する「とことん地域住民に寄り添う姿勢」が求められるのではないでしょうか。都道府県が設置する地域医療構想調整会議の議論を気にしている時間があったら、地域住民の医療・介護等のニーズ把握に時間を費やすほうが生産的でしょう。

佐賀県の有明海沿いの鹿島市に所在する社会医療法人祐愛会織田病院は、病床数が111床と小規模であるにもかかわらず、急性期から在宅医療まで担っており、とことん地域住民に寄り添ったサービスを提供しています。病院の設立理念は『悩める者への光明を』であり、『日本一の気配り病院』を目指しています。

多くの病院がひしめく大都市では、病院間の機能分担と連携は政策として当てはまりますが、鹿島市のように約3万人規模の地方都市においては、中小病院が医療から介護まですべての機能を担わなければなりません。以下、週刊医学界新聞の2020629日付けの第3377号に寄稿されている同院の織田良正総合診療科部長の説明や、織田正道理事長の講演資料を引用し、同院の“とことん”の取組を紹介します。

同院の診療圏は高齢化が進展し、85歳以上の救急搬送患者、新規入院患者が急増しており、入院患者における85歳以上の割合は年々増加、要介護、認知症の割合が高くなっています。病床を回転させるためには、退院前後におけるかかりつけ医や多職種との連携はもちろんのこと、各患者の必要に応じたケアを入院中だけでなく退院後も継続することが不可欠です。

そのため同院では、「治す医療」から「治し支える医療」に転換するために、①安心して自宅へお返しするための院内での仕組みづくり、②退院後もケアを継続できる仕組みづくり、③IoT(いろいろな「モノ」がインターネットを介してつながる仕組み)やAI(人工知能)を使った「在宅見守りシステム」の構築をしています。

 

具体的には、院内の多職種チームを組織化し在宅医療支援を実施しています。高齢者の独居世帯、老老介護の世帯では、退院した後に入院中のケアが途切れてしまうことで、退院後すぐ再入院となるケースが少なくありません。そこで同院では地域の医療機関と連携を図る院内の「連携センター」の中に、退院直後の在宅医療支援を行うチームを結成しました。同チームは、医師、訪問看護師、理学療法士、医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャー、訪問介護士の多職種で構成しています。「病院を基地と見立て、基地である病院から地域へ訪問する」との意味を込めて「Medical Base Camp(以降、MBC)」と名付けています。患者が退院すると同時に多職種が在宅医療へ移行するための支援を行うことで、入院医療から一貫した治療とケアが実施できるようになりました。

MBCチームが属する連携センターに80インチの大型モニターを設置し、モニターに映し出された地図上に在宅患者宅をマッピングするとともに、訪問スタッフが使用するタブレット端末のGPSを利用し、スタッフの位置情報を画面上で把握できるようにしています。位置情報を「見える化」することで業務の効率化や、患者宅からの緊急連絡など、状況に応じた対応が可能となっています。

加えて民間企業のオプティムがもつAIIoT技術を用いて、図のようなスマートデバイスとバイタルセンサーなどのICT機器を用いた在宅見守りシステムの実証実験を本格的に開始しています。具体的には、自宅にAIしか見ることができない「AIカメラ」を設置し、取得した映像を解析することで、転倒動作や長時間不在などの異常を検知します。異常検知時には病院や家族へ通知し、家族の許可を得た上で初めて病院から映像を見ることができる仕組みとしています(特許出願中)。さらに必要に応じて病院から患者の自宅にあるタブレットを遠隔起動し様子をうかがう「お声がけ機能」や、患者が装着しているスマートウォッチ上のナースコールが押されると病院に通知し、患者の自宅のタブレットを強制的に起動させる「ナースコール機能」、患者の身体状態をより明確に把握できる「バイタルデータ収集機能」などをパッケージしています。患者は自宅に居ながら病院内で医師や看護師に見守ってもらっているような状態を実現しています。

またスマートフォンやタブレット端末を使用した在宅患者とのコミュニケーションでは、高齢者の使用が難しく音声も伝わりにくいなどの問題がありました。そこで高齢者が普段から慣れ親しんでいる自宅のテレビにビデオ通話システムを連携させました。複雑な操作を必要とすることなくテレビ画面上で医師の顔を見ながらビデオ通話が行えるようになり、在宅での見守りに役立てています。その他にも熱中症の早期発見、予防を目的に、高齢患者宅に温度センサーを設置し、室温管理にも取り組んでいます。患者宅の室温は連携センター内の大型モニター上でモニタリングされており、一定の温度を超えた際には在宅患者に対して迅速にビデオ通話で注意を呼び掛けています。またCOVID-19対策では、在宅での発熱患者はオンラインでより細やかにフォローを行っています。

 

織田病院の“とことん”の取組内容は、簡単に真似できるものではありません。ただ住民のニーズを積極的に把握することに努め、できることから対応するのはどの医療機関でも可能です。他の医療機関との違いを出すために、“とことん”の取組みをぜひご検討下さい。

 

図 IoTAIを活用した見守りサービス内容

 

出典:織田正道理事長ご講演資料