IMC株式会社  池田医業経営研究所

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地域住民から選ばれるためのオウンドメディアによる継続的な発信

クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」が2月3日に横浜港に入港して以降、テレビニュースやワイドショーでは連日にわたって新型コロナウイルスを取り上げ、インターネット上でも大量の情報が流れていました。

ただ残念なことに、感染者以外は必ずしも着ける必要性のないマスクを消費者が買い漁ったために医療機関がマスク不足に陥ったり、マスクをせっかく着けていても平気でマスクの外側を触り何のためにマスクを買って着けているのかわからないような人たちも見かけたりしました。

 

健康や医療に関する情報を入手、理解、評価、活用するための能力を「ヘルスリテラシー」といいますが、2014年に実施されたヨーロッパヘルスリテラシー調査質問紙による調査によれば、図表1のように日本人のヘルスリテラシーは他の国と比べて低いようです。ちなみに質問は、「医師から得た情報がどのように自分に当てはまるかを判断するのは難しいか?」、「治療法が複数ある時、それぞれの長所と短所を判断するのは難しいか?」「メディア(テレビ、インターネット、その他のメディア)から得た病気に関する情報が信頼できるかどうかを判断するのは難しいか?」などです。

 

図表1 国別のヘルスリテラシーの平均点

 

 

出典:中山和弘他「健康を決める力」Website

 

平成31年3月15日 に公表された厚生労働省の「平成29年受療行動調査(確定数)」によりますと、ふだん医療機関にかかる時に「情報を入手している」人の割合は、図表2のように外来時は 77.7%となっています。「情報を入手している」人について、情報の入手先別にみると、「家族・知人・友人の口コミ」が最も高く70.5%。次いで「医療機関が発信するインターネットの情報」が 21.2%となっています。

「医療機関が発信するインターネットの情報」は、今回調査では21.2%ですが平成23年実施の同調査では13.1%であり、1.6倍になっていることがわかります。15~64歳についてみれば、30%超の人が「医療機関が発信するインターネットの情報」を情報入手先にしています。

また「SNS、電子掲示板、ブログの情報含む医療機関、行政機関以外が発信するインターネットの情報」を情報入手先にしている人は12.1%います。うち15~39歳は3割弱と高い割合を占めています。

70.5%と最も割合の高い「家族・知人・友人の口コミ」の大元の情報源にはインターネット情報も含まれている可能性もあるため、患者や地域住民にとって「医療機関が発信するインターネットの情報」はかなり重要なことがわかります。

 

    図表2 年齢階級別にみたふだん医療機関にかかる時の情報入手先(外来時) (複数回答、単位%

 

 

日本医師会では、かかりつけ医を「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と位置づけています。

新型コロナウイルスについても、玉石混交の情報があふれる状況下で、かかりつけ医がインターネット等を活用し、患者や地域住民に正しい情報を積極的に伝える役割を担うことができていれば、状況はより良くなったのではないかと想像します。

225日に首相官邸が「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を公表し、地域で患者数が大幅に増えた状況では、「風邪症状が軽度である場合は、自宅での安静・療養を原則とし、状態が変化した場合に、相談センター又はかかりつけ医に相談した上で、受診する」としました。ただかかりつけ医に相談と言っても、日医総研が2017年に実施した「第6回日本の医療に関する意識調査」によれば、図表3のようにかかりつけ医を持つ人の割合は50歳代以上では半数を超えていますが、40歳代以下では半数未満です。

 

図表3 年代別のかかりつけ医の有無

 

 

「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」にかかりつけ医の役割が明示されたため、自分が新型コロナウイルスではないかと心配する地域住民は、かかりつけ医に相談しないといけなくなりました。かかりつけ医をもっていない地域住民は、どうするでしょうか? おそらくインターネットで自分の住んでいる地域の医療機関のホームページを調べるのではないでしょうか。私ならば、医療機関のホームページに新型コロナウイルスに関して、分かる範囲での正しい病気の情報や普段の生活をする上での注意事項など、患者や地域住民が求めている情報を提供している医療機関を選択します。

 

スマートフォンなどのデジタルメディアの普及によって、誰もが自分の好きなときに、好きな情報を、好きなだけ入手し、発信・交換まで可能になりました。総務省が毎年調査・公表している「情報通信白書」によると、2018年の調査でインターネット利用率は60代で76.6%、70代で51.0%と年々増加しています。

マーケティング活動を行う際には、誰もがいつでも手軽に情報を入手できるような場として、オウンドメディア(Owned Media:自ら運営する媒体の総称。パンフレットや広報誌、自社のWebsiteやブログなど)を保有し、顧客が求めている情報を用意しておくことが重要な時代になりました。コンテンツマーケティングと呼ばれていますが、顧客に提供する商品・サービスの情報や顧客にとって価値のある情報を、客観的な裏付けのある根拠に基づき、顧客にわかりやすい言葉、表現で、こまめに説明し、顧客を引き寄せ、顧客と良好な関係、信頼関係をつくることで、繰り返し購入してもらったり、他の顧客に薦めてもらったりできるようにすることです。

 

成果を出すためには地道に情報を収集・分析・発信する作業を、本来ならば長期間継続することが必要です。ただ今回の新型コロナウイルスについては、かかりつけ医がクローズアップされたため、病気に関する情報をわかりやすくタイムリーに提供することで、かかりつけ医をもたない地域住民を自院の新規患者にする大きなチャンスだったかもしれません。例えば、一般の人はほとんど見ることのない厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症に関するQA」の内容を抜粋し、自院のWebsiteに簡潔明瞭な表現にして掲載するなど、ひと手間かければできることです。

 

オウンドメディアによる継続的な発信は、地域に根差したサービスを永年に亘って提供する医療機関には適した手法です。多少の労力はかけないといけないですが、費用はそれほどかかりません。継続的に取り組んでいる医療機関はまだまだ少ないことから、地域住民からかかりつけ医療機関として選ばれるために取り組まれてはいかがでしょうか。