IMC株式会社  池田医業経営研究所

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医療分野における5Gの導入

4月から携帯電話大手が順次、第5世代(5G)の移動通信システムを本格導入します。「5G」は「5th Generation」の略で、「第5世代移動通信システム」と呼ばれる次世代通信規格です。その特徴は3つあります。

 

 第一に超高速。現在の移動通信システムよりも100倍速く、例えば2時間の映画を3秒でダウンロードすることが可能になります。更に大容量のデータを必要とする3D映像やストリーミング動画サービスなどのダウンロードも実用化できます。

 

第二に超低遅延(リアルタイム)。通信ネットワークにおける遅延、即ちタイムラグを極めて小さく抑えられます。例えば、自動運転のように高い安全性が求められるものにおいては、リアルタイムでの通信が必要です。またロボットの遠隔制御や遠隔医療といった分野においても超低遅延は不可欠でしょう。

 

第三に多数同時接続。基地局1台から同時に接続できる端末を従来に比べて飛躍的に増やせます。例えば、これまでは自宅でパソコンやスマートフォンなど数個程度の接続でしたが、5Gにより100個程度の機器やセンサーを同時にネットに接続することができるようになります。例えば、災害時に大勢の避難者にウェアラブル端末を着けて健康状態を遠隔で確認する、といった用途への活用が考えられます。

 

総務省は2017年度から5Gの実現による新たな市場の創出に向けて、NTTドコモが実施主体となり、エンターテインメント、スマートシティ/スマートエリア、オフィス/ワークプレイス、交通、医療の各分野で総合実証試験をしています。医療分野については、図表1のように2年間で3つの実証試験が行われています。

NTTドコモのプレスリリースによれば、2017年度と2018年度に和歌山県において、都市部と地方の医療格差の問題を解決する遠隔診療の高度化に関する実証試験が行われました。和歌山県立医科大学地域医療支援センターと国保川上診療所及び訪問診療の現場を、5G を含む高速通信ネットワークで接続。高精細4KTV会議システムの映像・音声を2拠点間で伝送し、医師間の意見交換や、医師と患者間のコミュニケーションに活用しました。実証試験は、和歌山県立医科大学が提供する遠隔外来サービスの患者に対し実施され、診療科に応じて、国保川上診療所から和歌山県立医科大学に向けて外傷診断用の4K接写カメラの映像や、内部疾患診断用の超音波診断装置の映像、診療所側で予め撮影したMRI画像の伝送を同時に実施しました。

 

5Gにより従来の100倍以上のデータレートを必要とする高精細映像を2拠点間で共有することで、遠隔診療に携わる医大の専門医にとって「明瞭な映像や医療機器の情報により症状の判断がしやすい」「臨場感があり間近で診ている感覚を持てる」など診療の負担を軽減できること、また、地方の診療所に勤める医師の育成や地域医療のレベルアップを図れることが確認できたとのことです。また

 

「遠隔教育」として、診療所の若手医師が操作する内視鏡(胃カメラ)の映像を、5Gを含むネットワークを介して和歌山県立医科大学の専門医のもとへ伝送し、専門医から若手医師に対し、スコープの回転や停止などの操作、病変の観察ポイントに関してスムースに指導を行うことができたとのことです。

 

2018年度には群馬県前橋市において、前橋市消防局、ICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構、前橋赤十字病院の協力のもと、日本で初めて5Gを活用した救急医療分野の実証試験が行われました。その狙いは、一刻を争う急患搬送の現場において、適切な処置を行うまでの時間を短縮するため、救急車、ドクターカーおよび救急指定病院の3者間を5Gで接続し、患者の容態の情報などを高精細映像で共有することです。試験は一連の救急搬送シナリオを再現する形で実施され、患者を収容した救急車からは、医師を乗せたドクターカーと合流するドッキングポイントに向かうまでの道中、ベッドサイドモニタや俯瞰・接写カメラ映像などをパッキングした4K映像を、5Gを介してドクターカーおよび受入予定の救急病院と共有しました。ドクターカー乗務の医師は出血状況などを確認して適切な初動措置を救急隊員に指示することができたほか、救急病院医師は前橋工科大学が提供したマイナンバーカードシステムを活用した救急搬送支援システムを使って患者の既往歴を首尾良く確認しました。次いで、ドッキングポイントで患者をドクターカーに乗せ替えた後、ドクターカーに搭載された超音波診断装置や12誘導心電計、俯瞰・接写カメラ等の映像をパッキングした4K映像を、5Gを介してドクターカー・救急病院間で共有し、両拠点の医師間で所見の確認を行い、受入診療科の決定を行いました。

 

参加した医師からは、「5Gで見る映像は鮮明かつ情報量が豊富」「音声コミュニケーションに頼った従来の救急搬送時の推測とは異なり、実際に医療機関で患者を手当するのと同じ状況を再現できている」「救急車の中の状況を克明に外部に発信できるようになることは意義が大きい」などの好評を得て、本ソリューションが救命率の向上に貢献し得ることを確認したとのことです。

 

 実証実験の結果から判断する限りでは5Gの技術面での期待は大きく、普及に向けては導入時とその後の運用費用の負担の問題、遠隔診療に関する診療報酬上の規制の壁の問題が立ちはだかります。せっかくの技術を充分に活かすのか、宝の持ち腐れにするのかは、政府の方針次第です。具体的には、働き方改革や医師の偏在等の課題、生活習慣病患者の増加などの課題を解決するために、「対面診療の原則」にこだわらずICTを活用した診療を積極的に取り入れる決断をするかどうかです。

いずれにしても各医療機関は、5Gの普及が進む2年後以降の診療報酬改定に備えるために、遠隔診療の技術動向や今後の実証実験の結果などについて、継続的に情報収集をすることは欠かせないでしょう。 

 

 

図表1 総務省の5G総合実証試験

実施年度

自治体

実証試験内容

2017年度

和歌山県

 

5Gを活用した遠隔診療の高度化に関する実証実験(総合病院と診療所の医師間及び医師・患者間のコミュニケーション)

2018年度

和歌山県

日高川町

5Gを活用した遠隔診療の高度化に関する実証実験(訪問診療時の専門医による支援/胃カメラ遠隔レクチャー)

群馬県

前橋市

5Gを活用した救急搬送高度化ソリューションに関する実証実験(救急車・ドクターカー・救急病院間の患者情報の即時共有)

 

出典:総務省Website、株式会社NTTドコモの5G総合実証試験に関わるプレスリリース