IMC株式会社  池田医業経営研究所

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医療機関における働き方改革

 201941日から「働き方改革関連法」が順次施行されました。ポイントは、図表1のように3つあります。毎年5日間、時季を指定して有給休暇を与えるために、就業規則の見直しなどの対策を検討された医療機関もあるでしょう。

 

図表1 働き方改革関連法のポイント(医師以外)

時間外労働の上限規制の導入

【施行:201941日~】

(但し、中小企業は1年後)

時間外労働の上限について、45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度とする。

年次有給休暇の確実な取得

【施行:201941日~】

10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者に対し毎年5日、時季を指定して有給休暇を与える。

正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇差の禁止

【施行:202041日~】(但し、中小企業は1年後)

同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)の間で、基本給や賞与などの個々の待遇ごとに不合理な待遇差を禁止。

出典:厚生労働省HP『「働き方改革」の実現に向けて』

 

ただ皆様ご案内のとおり、医師については5年後の202441日からの施行となっています。厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」の2019年3月28日付けの報告書では、診療従事勤務医は年960時間/月100時間(例外あり)、地域医療の確保が困難な地域の医療機関の勤務医は、暫定特例水準として年1,860時間/月100時間(例外あり)、その他にも初期・後期研修医など短期間で技能向上を求められる医師については勤めている医療機関が指定されていれば年1,860時間/月100時間(例外あり)と、基準が一般の労働者よりも緩和された基準が設定されています。

 企業の働き方改革の取組みについて、「働かせ方改革」と報道などで揶揄されていますが、医師についても、個々の勤務医の健康を守ることよりも、地域医療や病院経営を守ることを優先した「働かせ方改革」になっているように感じます。

 

インターナル・マーケティングという言葉を聞かれたことはありますか?

あまり聞きなれない言葉だと思いますが、インターナル・マーケティングとは組織内に対するマーケティングのことで、20171月号で紹介しました。

図表2のように、長時間労働や人間関係など職員が仕事上で困っている内容に関して情報収集をし、働き方改革を本気で行うこと(職員向けサービスの向上)で、職員満足度が上がり、職場(医療機関)に対するロイヤルティは高まり、定着率や生産性が向上する可能性は高まります。その結果、患者向けのサービスの質が目に見えて上がってくれば、患者の満足度が向上し、患者は自院をかかりつけ医療機関にします。その上に知り合いにポジティブな口コミをしてくれるかもしれません。患者数が増加し、医業収益や利益が増加する可能性が高まるという好循環のモデルは、サービス・プロフィット・チェーンとよばれています。

 

 

患者満足と職員満足の関係は、いわゆる「鶏と卵」の関係のように見えますが、まずは職員満足度を高めることから始めるのがよいでしょう。もちろん「職員満足度を高めるためにはお金が必要。だからまずは患者を増やし利益を確保しよう。」という考え方もあります。ただここ数年の就職売り手(優位)市場の状況、また将来的な生産年齢人口の減少を考えれば、労働集約型ビジネスである医療機関にとって、インターナル・マーケティングによる職員満足度の向上は、経営戦略上、最重要なのではないでしょうか。医療機関の場合は、そもそも働き手である職員の確保ができなければ、診療報酬で定められている施設基準を満たせなくなることも出てくるでしょう。請求できる診療報酬点数が下がれば、損益分岐点を超える収入の確保が難しくなってくるでしょう。トップ・ダウンの「働かせ方改革」ではなく、職員が満足するボトム・アップの「働き方改革」の実施は必要不可欠です。

 

では職員満足度の向上のために何をすべきか、先進的な取り組みをしている企業として、1983年の開園以来、人気を保ち続けている東京ディズニーリゾートの運営をしている(株)オリエンタルランドの従業員とのかかわり方の方針は参考になります。

 

オリエンタルランドは成功要因のひとつとして、人財力をあげています。会社のホームページには、「人財に関する基本的な考え方」として、男女の分け隔てがない社風や、人の喜びを自分の喜びと感じるマインド、従業員同士で称えあう活動などの企業風土をより高めつつ、すべての従業員が働きがいを感じ、心の充足感を得ながら、安心して働くことができる、すなわち『ディーセントワーク』の実現が重要であると書かれています。

 

従業員は約24,000人。2割が、「社員」「嘱託社員」「出演者」で、8割を占めるのがテーマパークの最前線でゲストをお迎えする「キャスト」として働く「準社員」です。接客の質の高いキャストの存在は東京ディズニーリゾートにとって必要不可欠なサービスの要素ですが、その役割を「準社員」が担っている点は驚きです。

ディーセントワークについては、厚生労働省がその概念の普及に努め、実現のための労働政策を進めていくとしており、平成247月に閣議で決定された「日本再生戦略」でもこの実現が取り上げられています。日本におけるディーセント・ワークの捉え方として、平成23年度の厚生労働省の委託事業の報告書の中では4つに整理されています。

 

1)働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること、

2)労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること、

3)家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること、

4)公正な扱い、男女平等な扱いを受けること、です。

 

東京ディズニーリゾートが、準社員の力で高品質のサービスを提供し続けていられるのは、会社がディーセントワークの考え方を社員に徹底しているからだと推測します。医療機関では果たしてどうなのか? 発言がしやすい職場なのか、職員は家庭生活と職業生活の両立ができているのか、男性医師と女性医師の扱いは平等なのかなど、課題がいろいろとあるように思います。

 

 

*ディーセントワークとは、「働きがいのある人間らしい仕事」を指す言葉で、1999年の第87ILO総会において、ILOInternational Labour Organization)の21世紀の活動の主目標と位置づけられました。

 

 

【著者プロフィール】 東京大学経済学部卒業。NECにてITシステム担当、長銀総合研究所にて不動産系・ 医療系コンサルティング、ソニー生命にて医師・医療法人向けマーケティング、KPMGヘルスケアジャパンにて医療機関コンサルティング・研修事業に従事。東京大学医療人材育成講座等にて「医療を動かす」 ための政策作りに取り組む