IMC株式会社  池田医業経営研究所

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コトラーのマーケティング4.0 後編

 エアビーアンドビーやウーバーのサービスはご存知でしょうか。利用されたことはなくても、耳にされたことはあるのではないでしょうか。エアビーアンドビーは、ホスト(部屋の貸し手)と旅行者をマッチングさせる宿泊サービスを提供しています。ウーバーは、乗客と付近にいるドライバーをマッチングして簡単に目的地へ移動できる乗車サービスを提供しています。

どちらもインターネットを活用してサービスのプラットホームを作り、自らがホテルや自動車などの固定資産を保有せずに、シェアを拡大しています。ただ日本では規制が厳しいために普及は遅れています。懸念されるサービスの品質については、利用者及びサービス提供者による評価を蓄積して見える化することで担保しています。

 

インターネットやクラウド技術の発達と低コスト化、スマートフォンに代表される携帯機器の普及、コンピュータの処理能力の向上や記憶容量の拡大、無線通信の帯域が拡大しリアルタイムで大容量の双方向通信が可能になったことで、経済活動や社会システムの基盤が大きく変化しようとしています。

エアビーアンドビーやウーバーのように単に既存のビジネスモデルをデジタル技術で置き換えるのではなく、デジタル時代に最適化された全く新しいビジネスモデルが登場しつつあります。これがデジタル革命です。デジタル革命は既存の仕組みを一旦白紙に戻して、顧客満足度を高めるというゴール設定に基づいて全体最適を目指すものと言えます。

 

前号で紹介しましたマーケティング1.03.0の最新理論が、マーケティング4.0になります。コトラーは、デジタル革命のマーケティング・アプローチと言っています。IoTInternet of Things)に代表されるデジタル技術の特色は、リアルタイム性と双方向性でしょう。情報の重要性が高まると同時に、情報の送り手と受け手との情報の非対称性が限りなく小さくなり、受け手がたちどころに発信者となる可能性もあります。

医療分野におけるリアルタイム性と双方向性については、2018年度診療報酬改定で、オンライン診療料やオンライン医学管理料が新設され、『診療は対面で』という時代から『オンライン経由もあり得る』という時代の入り口に立ちました。「対面による診療の間隔は3カ月以内」「緊急時におおむね30分以内に当該医療機関が対面診療可能」といった厳しい算定条件が付いていますが、診断や治療への影響についてエビデンスが蓄積されることでおそらく緩和されていくでしょう。

 情報の送り手と受け手との情報の非対称性に関しては、医療分野では以前から言われていました。一般的には医療者側が多くの専門的情報をもっているのに対して、患者側はほとんど情報をもっていない。そのため患者にとって最適な医療が提供されない可能性があるという課題への対応として、インフォームド・コンセントが重視されるようになり、1997年に医療法が改正され「説明と同意」を行う義務が、初めて法律として明文化されました。ただその後のデジタル革命によって、スマートフォンを常に携帯できるようになり、インターネット検索がいつでもどこでもできる時代になりました。患者は症状から病名を、病名が分かっていれば診療ガイドラインなどを、すぐに検索して調べられるようになったため、情報の非対称性は以前よりも、かなり小さくなってきているのではないでしょうか。

 

コトラーは、デジタル時代における見込客がサービス購入に至るまでのプロセスについて、『5A』という段階を経るという理論を提唱しています。

Aとは、「Awareness」(気づき)、「Appeal」(魅了)、「Ask」(尋ね・求め)、「Act(行動=購買)、「Advocacy」(推奨表明)という5つの要素から構成されています。

医療機関もデジタル革命時代の顧客の購買決定プロセスを意識して、対応の準備をしておく必要があるでしょう。図の『5A』の要素について考えてみましょう。

「気づき」の段階においては、チラシによる広告や、駅等の看板設置などが考えられます。ただ広告スペースの大きさや表示内容に制約があるため、気づかれることはあっても「アピール」までには至りません。アピールするための手段として、自院のWebsiteを充実させる必要があります。診療科目や得意分野、スタッフや設備の紹介、アクセス等々は当たり前として、医療の質についての指標や混雑状況、予約など、またブログやフェイスブックなどで医療機関の近況を伝えれば印象はかなり違います。

医療機関を探す際には、ヤフーやグーグルなどのポータルサイトで、「診療科+エリア」等を入力し検索する場合が多いですが、検索結果の上位には医療機関検索サイトが表示されることがよくあります。ただほとんどの医療機関は、クリックしても最低限の情報しか掲載されていません。プラスアルファの情報があるだけでも印象が違いますので、コストがかかるわけではありませんし、積極的に検索サイトに情報を提供されたほうが良いのではないでしょうか。特に医療機関が密集している地域の住民は、医療機関選びに苦労します。検索サイトで調べた際に、情報が充実していて、その上に良い口コミが多く集まっている医療機関があれば、選択する可能性が高いように思われます。

また医師の顔写真や医療機関内の様子、駐車場の状況、バリアフリー対応など、患者が不安に感じる要素をホームページで伝えておくことで、最後の「行動」に移し易くなります。他業界では当たり前になっているお客様の評価の掲載については、ご意見箱などを置いている医療機関は、意見と回答をインターネット上に掲示することはすぐにでもできます。患者の厳しい指摘を含めた評価結果は重視されますが、医療機関サイドの誠意あるタイムリーな回答、改善への取り組み結果をありのままに記すことで地域住民からの信頼を獲得できるでしょう。

競争環境が厳しい地域の医療機関の場合、固定客が付いてポジティブな口コミが自然に拡がり、新たな患者が獲得できるようになるまでは、ホームページ、ブログ、フェイスブックなどのオウンドメディア(自社が所有する(Owned)メディア)を地道に充実させることが、地域住民に選ばれるための近道なのかもしれません。

なお「推奨表明」については、本誌201610月号において「口コミの起こし方」という内容で掲載していますので、是非ご参照ください。

 

図 デジタル時代の『5A』への対応

購買決定プロセス

顧客へのアプローチ

Awareness(気づき)

伝統的メディア(TV、雑誌、新聞等の広告、看板等)、オウンドメディア

Appeal(魅了)

Ask(尋ね・求め)

検索サイト、ソーシャルメディア

Act(行動=購買)

オウンドメディア

Advocacy(推奨表明)

ソーシャルメディア等