IMC株式会社  池田医業経営研究所

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医療に必要なマーケティング プル戦略

『売ることは聞くこと』、とあるサービス業界向け雑誌の今月号の特集です。その骨子は、売りつけようと話すのではなく顧客の役に立つために聞く。聞くことによって顧客の深層心理にあるニーズを突き留め、的確な解決策を示してこそ、質の高い売り上げが生まれ、お客の心に満足を超えた感動が生まれる。その結果、お客はリピーターになり、口コミの発信源になってくれる、ということです。

モノやサービスを販売する戦略には、「プッシュ戦略」と「プル戦略」の二種類があります。プッシュ戦略とは、顧客に積極的に商品やサービスをアピールし、自社の商品を顧客側へ「押し出す」ことによって購入を促すという方法、反対にプル戦略とは、潜在顧客に自然と商品やサービスを欲しいと思わせるように“引き込む”方法です。身近な例で言えば、新聞や化粧品等の訪問販売や、電話による営業、お店での呼び込みなどが「プッシュ戦略」、インターネットや折込チラシなどに記載されている価格や性能について顧客が自ら調べて購入するのが「プル戦略」です。

医療機関の場合は、紹介患者の獲得のために他の医療機関や介護施設等を訪問したり、健診の受診者獲得のために健康保険組合等を営業訪問したりするのはプッシュ戦略になりますが、対患者という点では基本的には広告や口コミ、ホームページ等を介したプル戦略が中心になります。

 

プル戦略の場合、患者、住民の医療サービスに関するニーズを理解したうえでなければ、新規患者の獲得や既存患者の固定客化等の有効な施策を講じるのは難しいでしょう。では医療機関の普段の業務において、顧客ニーズを収集すること、『聞くこと』はどれだけできているでしょうか?

株式会社QLifeが実施した診療所における「患者満足度調査」実施状況のインターネット調査結果(2015年実施、調査対象:診療所の理事長・院長・勤務医等、有効回収数:250人)によると、「満足度調査」を実施しているところは1割強にとどまり、「必要と考えつつも実施していない」診療所が半数程度のようです。病院については公益財団法人日本医療機能評価機構が実施している病院機能評価の認定を受けている場合は、その評価項目に「意見や苦情を聞くための手段があり、適切に機能している」、「患者の満足度調査が定期的に行われている」があるため、実施比率は高いと考えられます。

また患者の声を集める方法としては、大掛かりな患者満足度調査以外にも、ご意見箱を置いて要望や苦情を集め、その回答を外来スペースに掲示している病院はありますが、診療所ではほとんどみかけません。病院の場合は、患者数が多いことから自然と匿名性が保たれるため、本音の意見を集めやすいでしょう。一方で診療所の場合は、患者数が病院と比べて少ないために誰が記入したのか判明する可能性が拭えず、患者は本音の意見は書きづらいかもしれません。QLifeの調査結果でも、満足度調査の「回答が実際に役立つとは思えない」が10%、「本音が出てくるとは思えない」が7%あり、一方で「手間がかかる」が43%となっています。ただ患者の意見を聞く機会がないと、患者は不満を抱えたまま、医療機関から離れて行ってしまう可能性もありますし、最悪の場合はネガティブな口コミを周辺に拡げてしまうリスクもあります。

 

一方で、患者満足度調査を実施していたり、ご意見箱を置いたり、医療相談室等を設置したりしてする医療機関は、患者のニーズを分析し、活用できているのでしょうか?

私が関わってきた病院の患者の声の収集内容をみていると、大抵の場合は図の“あるべき姿”と“現状の姿”のギャップである苦情、不満が大多数です。「××は(普通に考えればできていても当然なのに)、なぜそんなこともできていないの?」というような患者からの指摘を、日々解決することはもちろん大切です。ただ解決できたとしてもあたり前のサービス水準になるだけで、他の医療機関と比較して優れているというレベルには至りません。

 

図 顧客の声の種類 省略

 

ではマーケティング力で定評のある企業は、どのようにして顧客の声を集めているのでしょうか?

「あったらいいな」をカタチ(製品・サービス)にすることを“ブランドスローガン”にして、「熱さまシート」「サワデー」「ブルーレット」など数々のヒット商品を世に送り出している小林製薬の取組みを調べてみました。まず「お客さまの声はまさに経営資源そのもの」という考え方をベースにして、お客様相談室を中心にして全社が動いています。苦情や要望、問い合わせに通り一遍に対応するのではなく、顧客との対話や声の分析を通して、不満を満足に変えること、“ファンになっていただくこと”を目指しています。そのためにお客様相談室では、お客様、一人ひとりに「電話をかけてよかった」と思っていただけるように、表の内容を毎日唱和し「一生懸命応対」を徹底しています。

 

小林製薬のお客様相談室の取組 お客様の思い「小林製薬でよかった」

1. ひとりの人間として、大切にされたい

2. 私の言っていることは本当であるとわかってほしい

3. 声をしっかり聞いて、会社に伝えてほしい

4. 専門的なアドバイスをわかりやすく言ってほしい

5. 電話をかけてよかったと思いたい

出所:小林製薬News Letter(2014年7月)

 

また小林製薬では、営業や製造部門などの従業員に向けて『お客様の声を聴く会』を開催し、お客さまの「思い」や「感覚」を実感してもらうことで、当事者意識を持って応対や改善活動に取り組めるように工夫しています。

 

医療機関に当てはめれば、まずは患者からの意見を受け身ではなく、積極的に集める姿勢を見せること、そして意見を集めて分析・対応をする組織体制を作ることが望まれます。患者はご意見箱に入れる前に、受付の事務や看護師等に何らかの要望や意見を伝えていることが多いのではないでしょうか? そのような声を集めて対応しないと、問題が埋もれたままになっている可能性があります。職員数の少ない診療所の場合は、職員が日々、患者からの意見や要望などを集めタイムリーに対応を検討することが必要です。ファンになってもらうように対処するのは理想ですが、知らないうちに患者が離れていかないように積極的に問題解決を図りましょう。

今後、医療保険財政、介護保険財政が更に厳しくなるため、保険サービス部分の収入の伸びは期待しづらくなります。中長期的に保険外サービスに活路を見出すとした場合、患者、利用者の願望やボヤキの中にヒントは隠されています。新製品やサービスを次々と生み出す小林製薬の取組を参考にされてはいかがでしょうか。