IMC株式会社  池田医業経営研究所

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医療に必要なマーケティング ブランドの意義

 

前号で、自院のもつ強み、弱みを把握し、診療圏の患者や連携先の医療機関や介護事業者などの顧客の視点に基づいて、自院のポジショニングを見直されることをお奨めしました。大切なのは、「〇〇〇の時にはあの医療機関にかかろう」、「△△△の時には患者さんにあの医療機関を紹介しよう。」というように自院が名指しされるように地域における役割、位置づけを明確にしておくことです。地域における自院の役割、ポジショニングをより確固たるものにし、患者数減少が見込まれる将来に亘って生き残っていくためには、ブランド戦略の考え方が参考になります。

例えば、日本には外国と比べ自動車メーカーが多く存在します。自動車大国のアメリカでは国内の大手メーカーはGMとフォードの2社しかありません。最近20年で自動車の国内需要が3割ほど減少しているにもかかわらず生き残っている一番の要因は、「安心と信頼のトヨタ」、「技術の日産」、「エンジンのホンダ」、「走りのマツダ」、「軽のスズキ」などのように、少なくともこれまで各社がブランドを確立することで、棲み分けができていたからでしょう。

 

「brand(ブランド)」の語源は、焼印を押す意味の「Burned」で、自分の家畜と他人の家畜を間違えないよう、焼き印を押して区別していたことからで、「銘柄」「商標」を「brand」と言うようになったようです。

ブランドを確立することができれば、図のように様々なメリットがあります。

顧客のロイヤリティが高まることで、固定客、ファンにすることができます。その固定客が口コミをしてくれるので、顧客層は徐々にですが自然と拡がっていくでしょう。結果的に地域におけるシェアは中長期的に高まります。中規模以上の急性期病院や専門病院などでしたら、患者を紹介してくれる診療圏の開業医さんをいかに固定客化するかです。

次に働いている職員やその家族は、誇りをもてます。たとえ給料が他の医療機関と比べて高くなくても、就職し辞めずに長く働いてくれます。最近では親が就職に口を挟むことが増えているようですが、ブランドがあることで反対されることは少なくなるでしょう。

取引先との交渉も有利に働きます。取引先にとって、地域で商売を拡げるうえで、ブランド力のある医療機関と取引実績があることは大きなメリットになるでしょうから、取引条件が多少厳しくても応じてくれる可能性があります。全国的にブランドのある医療機関などでは、共同開発と称してかなり安価にITシステム等を購入しているような話も聞きます。

また特定の診療分野でブランドを確立すれば、他の分野にも波及するというメリットもあります。例えば、特定の臓器や部位の治療分野で全国的に有名でしたら、他の分野の治療もおそらく診療レベルが高いのではないかと患者は類推しますので、病院全体で患者を増やすことができるのではないでしょうか。

 

図 ブランド力のある医療機関に対する関係者の意識

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ではどのようにして、ブランド力を高めていけばよいのでしょうか?

まず自院のポジショニングを決めます。ブランドとして強く認識してもらうためには、「競合と比べて細かい点でここが優れている」と訴えていても、専門家やよほど詳しく調べる消費者ではない一般の人たちには伝わりにくいでしょう。競合と比較して【better】(より良い)を目指すよりは【only】(自院ならでは)を目指すことが近道です。例えば、スマートフォンを選ぶ際のポイントとして、画面サイズやメモリ容量、カメラの性能等々の機能面の比較項目を検討するでしょう。しかしなぜか日本では、多くのメーカーが製造していて選択肢も多く機能が優れているAndroid機種よりもiPhoneが選ばれており、シェアが7割弱にもなっています。値段は高く機能はBestではないですが、『iPhone』だから選ばれているということでしょうか。

 

次に自院のポジショニング、ブランド価値を顧客に伝える必要がありますが、その手段としてブランド・ステートメントという方法があります。

ブランド・ステートメントとは、自院の理念やポジショニングなどを含め、顧客に自院をどのように捉えて欲しいかについて明文化したものです。ブランドに関する拠り所となります。ステートメントの内容は、当たり障りのない文言ではなく、そのブランドの存在意義やあるべき姿をしっかりと示すことが肝要です。またステートメントの内容を実現するためには、理事長、院長などの経営者を始めとした経営幹部はもちろんのこと、正規職員のほかにも委託業者や派遣社員など自院が提供するサービスに関わっている関係者全員がブランドの価値観に共感し、即した行動をとらなければいけません。内部の職員が共感できない価値観に、顧客や取引業者等の関係者が共感することはまずないでしょう。

 

ブランド・ステートメントを表明している医療機関はほとんどないのですが、福岡県の株式会社麻生が開設している麻生病院は自院のブランド・ステートメントとして、「innovate and evolve」=「革新し、そして進化する」と表明しています。具体的には、TQM(Total Quality Management)やISO(International Organization for Standardization)、リーンマネジメントなどによる改善活動や、医工学連携、さらには国内外の医療機関との提携などにより、様々なイノベーションを生み出し、人、組織、地域医療、そして医療界の進化に貢献していく、という思いや姿勢を意味しているようです。

またVI(Visual Identity)、シンボルマークも定めており、飯塚病院はこれまでも、これからも医療界において様々な革新的な取組みを行い、成長し、進化し続けていくフロンティア病院である、というブランドイメージを視覚化しています。「医療サービス」「教育」「グローバル化」の3つの柱を決め、具体的には最高度の医療の質を追求する、その質の向上に不可欠な教育を実施する、それらの発展のために海外も含め様々なネットワークを作り活用していく、そしてこれらの相乗効果により革新・進化を生み出していくということのようです。

 

比較的小さな組織や設立間もない組織では、わざわざブランドの価値観を明文化しなくても、経営者が率先垂範することで普段の業務の中で体現できるかもしれません。ただ組織が大きくなり、ブランドの歴史を共有していない世代が増えてくると難しくなってきますので、ブランド・ステートメントの策定を検討されるのも宜しいのではないでしょうか。