IMC株式会社  池田医業経営研究所

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医療に必要なマーケティング 顧客体験

 

医師が病気にかかり患者として過ごした経験を、闘病記として本やインターネット上で発表している例をみかけます。どんなに優れた医師であっても、疾患そのものに自らがかかり苦労してみて、初めて気づくことがあるようです。また疾患のことに限らず、病院内のオペレーションや看護師の対応など、患者の目線でみると普段患者さんにとって良かれと考えて行っているようなことでも改善すべき点が見つかるようです。医師個人の闘病体験が、その後の自分の医療現場で活かされれば、患者にとっては大変良いことですし、院内に伝達し共有してもらえれば病院の運営にとってもプラスになります。

医学部や看護学部では、教育の過程で患者体験を取り入れており、患者の立場を理解したうえで実際の業務に就くように考えられているようです。例えばある大学医学部の学生の入院体験の感想をみると、「医師からの説明がわかりにくいと感じたが、看護師がフォローしてくれたので患者さんも理解できた様子だった。」「看護師を呼んだけどすぐに対応してくれなかった。10分でも長く感じました。せめて、一言どのくらいで対応してもらえるのか伝えることで不安感が違ったのではないでしょうか。」など実際に患者さんの立場にならないと職員には理解しづらいことは多々ありそうです。

また最近では、高齢者擬似体験スーツ・ゴーグル・耳栓・手袋をつけて歩行してみて、高齢者の視界が狭く、音も聞こえにくい、関節も曲げにくいなどの事情を体感するようにしている医療機関や介護施設も増えてきているようです。頭で考えるのと、実際に体験するのは大違いであり、患者体験は意義ある試みだと思います。

 

アメリカでは企業の新たな差異化戦略として、CX(Customer Experience)が注目されています。「カスタマー・エクスペリエンス」とは、商品やサービスの購入前後のプロセスや利用時に顧客が体験する「心地よさ」「驚き」「感動」などの付加価値のことです。単に「買った、サービスを受けた」だけではなく、「選んで良かった、とても満足した」とポジティブな感情を顧客が意識する状態にまでできれば、リピーターになってもらえ、ファンになってもらえることで口コミ等によって良い評判が自然と拡がっていくでしょう。「顧客経験価値」と日本語訳されることが多いのですが、「おもてなし」などという日本語訳が適切だという主張もあるようです。顧客体験は「顧客から高いロイヤリティの獲得を可能にする、記憶に残る情緒的で特別な体験」であり、常に顧客視点に立つという企業理念や社員の行動指針を創って組織に定着させ、サービスとして提供し続けることができるかがポイントです。例えばコーヒーショップのスターバックスは、ミッションとして『「人々の心を豊かで活力あるものにするために-ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」を大切にし、お客様に「驚き(サプライズ)」と「楽しみ(ディライト)」を提供するために、常に新しい商品やスタイルを提案してまいります。』と謳っています。コーヒーを提供するだけではなく、驚きと楽しみという顧客体験を提供し続けるために、新しい試みを日夜考えているのでしょう。

 

では医療機関における印象に残る顧客体験としては、どのようなことが考えられるでしょう。例えば、病院の玄関のタクシー乗降場所でサポートをしてくれるホテルのドアマンのような人を配置したり、総合受付においてホテルのコンシェルジュのような応対をする人を配置したりしている病院があります。そこまでしなくても診察室に入ると医師がいつも笑顔で迎え入れ、患者さんの名前を憶えていて、前回までの診療録内容をしっかりと頭に入れているだけでも、患者さんに驚きを与えられるのかもしれません。

患者さんの経験価値を高めるために、図のように患者さんの目線で、受付から診察、検査、会計、処方に至るまでの、待ち時間や職員の応対などのプロセスを定期的に点検したり、患者さんの声を集めるためにご意見箱を外来の待合室や病棟などに置いておき、投函された意見を参考にしたり、外来患者や入院患者に満足度調査をしたりすることで、患者さんの体験を調査することができます。また医事部門や会計部門などの窓口におけるクレームなどへの対応が優れていれば、逆にそれが患者さんにとって良い印象として残る体験になります。いずれにしても、患者体験の情報を定期的に幅広く収集し、院内において改善のサイクルを継続的に回すことが大切です。

 

図 患者経験価値の情報収集と改善サイクル

 

患者さんの経験価値を知るためには、例えば日本医師会が実施している「心に残る医療」体験記コンクールの作品や、患者さんが書いた闘病記なども参考になるでしょう。最近では病気を患った本人やその家族などが病気と闘った記録や心情などをまとめた闘病記を多数集め、「闘病記ライブラリー」としてまとめて配架しているような図書館もあります。

 

個人によるインターネット経由の情報の発信・拡散、共有が当たり前の時代において、他業界では顧客体験価値への対応は生き残りのため必要不可欠になっています。ホテルや飲食店などの場合は、検索のポータル・サイトがあり顧客の実際の利用体験に基づく評価が記載されています。中には辛辣な内容もありますが、指摘事項によっては新たなサービス開発につながるようなこともあり、貴重な情報源とも言えます。また飲食店・小売店・美容室・銀行などの業界では、覆面調査(ミステリーショッパー)を利用しているところも増えているようです。顧客に扮した調査員が、あらかじめ定められた調査項目に沿って対象店舗を利用し報告書を作成します。調査対象店舗は報告書に基づいて自店の強みや弱みを発見し、店舗運営の改善につなげています。医療機関の場合は、公的医療保険ですので調査員による受診は難しいですが、人間ドック等の健診サービスなどでは活用できないことはないように思われます。

医療機関は他業種と比較してまだまだ競争は激しくないため、患者経験価値をそれほど意識する必要はなかったかもしれません。ただ今後は医療財政が厳しく診療報酬が抑制され、人口減少が進み患者も減少していきます。医療機関が生き残っていくためには、地域の患者さんや住民について競合する医療機関よりも、より深く知っておくことは必要になってくるでしょう。