IMC株式会社  池田医業経営研究所

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口コミによる集患

 

前回の都知事選、固定票をもつ与党、野党の推薦候補者が大差で敗れました。小池百合子さんが政党の推薦無しでも当選した勝因として、支援の輪を広げるのに活用したSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が挙げられています。短い選挙期間内で、都内を隈なく回るのは不可能ですので、SNSを活用することで効率的に都民の「認知」を広げて、選挙活動中の自らの言動によって「選択」され、最終的に投票という「行動」までに至らせたわけです。

 

医療の場合の「行動」、受療行動について厚生労働省が3年毎に調査をしています。平成26年度の調査では病院を選んだ理由として、「医師による紹介」が最も多くなっています。病診連携や病病連携を厚生労働省が推奨していることから、病院を選ぶ際には「医師による紹介」が多いのは納得がいきます。

一方で「家族・友人・知人からのすすめ」が5人に1人前後もいます。診療所の調査はないのですが、病院の受診前にかかっている可能性の高い診療所も含めますと、かなりの人が「家族・友人・知人からのすすめ」などの口コミに依拠していることが予想されます。

 

 

 実際に、午後のゆったりとした時間帯に喫茶店やファミリーレストランに行って耳を澄ますと、女性同士で自分自身や親の病気、医療機関の噂話などをしているのがよく聴こえてきます。

では、口コミはどうすれば起こすことができるのでしょう? 誰もが口コミをする人になり得ますが、皆さんの周囲でも積極的に話をする人と、聞かれれば話をする人がいるでしょう。口コミを促すために、他業界では「紹介キャンペーン」を実施して、紹介者にも何かメリットを与えています。

医療業界では、紹介キャンペーンは周辺の医療機関の手前なかなか難しいですが、健診や人間ドックで行うことは可能かもしれません。保険診療でも、初めての患者さんに対して、当院を選んだ理由をそれとなく確認するようにすれば、紹介者や紹介ルートを把握することができるでしょう。紹介してくれた人がわかれば、手紙等でお礼をしたり、診療内容の特長等の話題を改めて伝えたりすることで、口コミを積極的にしてくれるかもしれません。

その他に地域に影響力のある人、信用力のある人、例えば自治会や老人会のまとめ役の人などを対象にして発信していくなど考えられます。同じ労力をかけるのなら、口コミ力のありそうな影響力のある少人数に注力するほうが効果はあげやすいでしょう。

 

口コミを拡げるためには、誰もが他人に伝えたくなる話題をつくる必要性があります。昨年の12月に、岐阜県の社会医療法人の松波総合病院のある取組が新聞記事に出ていました。「受付の担当にソフトバンク社の人型ロボット『Pepper(ペッパー)』一台が“就任”する。同院によると、県内の医療機関でペッパーの導入は初めて。人間ドック・検診センターの受付業務を担当。ペッパーの“雇用条件”は三年間のリース契約で、同院はソフトバンクに月々約六万五千円を支払う。」という内容です。地元の岐阜新聞、中日新聞の他にも、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞でも写真入りの記事が掲載されており、年あたり80万円弱の費用で広域に広告宣伝できたわけですから、費用対効果は相当なものでしょう。同院は手術支援ロボット「ダ・ヴィンチSI」や320CT装置、3.0テスラMRIPET-CT装置などを導入しており、診療圏を拡大し集患をする必要性が高いことから、広域に病院を認知してもらう方法として大成功だと思われます。おそらく同院で健診を受けた人が口コミで拡げたり、ペッパーを写真にとってSNSで拡げたりすることはあったでしょう。ただ広域への拡散という点では、マスコミの効果は多大です。ペッパーの受付は誰もが思いつきますが、他よりも逸早く実施するというスピードが、いかに大切なことかがわかります。

 

一方で、医師の特殊技能等、専門家ではない患者さんが第三者に説明をすること自体が難しいサービスについては、口コミしてもらうことはなかなか難しいでしょう。例えば外科分野の治療について、内視鏡治療や放射線治療などの低侵襲性の治療に徐々に移行してきていますが、「当院は低侵襲治療が得意です」というよりも、例えば「切らないので3日間で退院できます!」という表現のほうが、おそらく患者さんは知り合いに伝えやすいでしょう。

 

まずは自院ができることとして、「職員が全員笑顔でとても感じがよかった」とか「患者さんの顔や名前を憶えている」とか、お金をかけなくても努力すればできることから始めてみるのがよいでしょう。期待と現実のギャップが、人の気持ちを動かします。「医療機関の受付は事務的、医師は愛想が決して良くない」というように医療機関の接遇に対する期待はおそらく低いでしょう。そのおかげで、ちょっとしたことでもお客は感激します。患者さんが最も期待していないのはどの部分かを考えて、そこで劇的な瞬間を体験させることができれば、口コミのネタができます。

 

口コミのネタを継続的に利用者に伝える方法として、広報誌があります。院内に置く広報誌は、インターネットのホームページと同様に医療法上の広告に該当しないため、かなり自由に記載することができます。カラーで印刷した差しさわりのない内容のもの、具体的には病医院名を隠せば発行元がわからないような内容では、他でも入手可能と考えられて手に取られない可能性があります。当院独自の内容、親近感が湧くような内容にしたほうがよいでしょう。例えば、医師や職員のパーソナルな情報を載せれば、相手も自然と身近に感じ、話題になりやすくなるかもしれません。私自身、フェイスブックをしていますが、パーソナルな近況をまめに掲載している知り合いの医師などは、久しぶりに会った時にとても身近に感じられますし、共通の知り合いに会った時に、そこにいないのに話題に上ったりします。

 

はじめは「できるかな? 途中でネタ切れにならないか?」などと心配しますが、これは産みの苦しみで、そのうち患者さんなどから「楽しみにしている」と言われると、やりがいを感じます。また何かネタがないかと観察していると、これまで気が付かなったことなどが発見できたりする副次効果もあります。広報誌の内容をホームページに掲載したり、記事の内容を個別にブログやフェイスブック等のSNSに掲載したりしている医療機関もあります。患者さんが選ぶのが難しいほどたくさん医療機関がある都市の場合は、無機質なホームページだけではなく、一歩進んだ取り組みを検討されてみるのはいかがでしょうか。

 

病院を選んだ理由 

 

出所:平成26年受療行動調査(確定数)の概況 厚生労働省