IMC株式会社  池田医業経営研究所

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経友会寄稿文 健康保険組合(保険者)への期待 

身近な医療の問題を考える

 

昭和613月卒 池田美智雄

 

私は本学を卒業してから約25年になるが、かれこれ15年くらい医療機関向けのコンサルティング業務に携わっており、仕事柄、医療制度や医療サービスについては注意を払っている。普段は、供給者側の医療機関に関与しているが、顧客である患者の視点では疑問に思えることも幾分あるため、皆さんの参考になればと思い書いてみる。

 

「あなたは病気にかかったときにどの医療機関に行きますか?」

日本の医療制度の特徴としてフリーアクセスと国民皆保険があり、保険証を持参していれば保険医療機関のどこにかかってもよい。ただほとんどの人は滅多に病気に罹らず、いざという時にどこにかかるか決めていないと思われる。地域のコミュニティに関わっている人などは、口コミ等の情報を参考にして判断ができるが、そうではない今時の人はインターネット等で調べて開示情報が充実している、できるだけ大きな病院を選ぶのが通常ではないだろうか。

大病院での外来受診は、「23時間待ちの3分診療」と昔から揶揄されているように、一般的に待ち時間が長い。大病院は、専門性の高い医師が幅広の診療科に存在し、高機能、高額の医療機器を取り扱える技師等の専門家を抱え、必要な場合は手術や入院ができる体制を敷いている。厚生労働省(以下、厚労省)としては、限られた医療資源を効率的に効果的に活用するために、より難しい症例を診るのは大病院、それ例外は中小病院や診療所のように役割分担をさせる必要があると考えている。

その方策として厚労省は、主に供給側の行動をコントロールすることで解決しようとしてきた。具体的には、下表のように大病院は外来患者を多く診てもあまり収入が入らないように、初診料、再診料を低めに設定していた。しかし徐々に診療報酬改定を検討している厚労省の審議会において、「同じサービスは同じ価格であるべきだ」という意見に押され統一されてきている。

価格(円)

医療機関
の分類

初診料

再診料/外来診療料*

H18
3
月以前

左記以降

H184月~
H20
3

H204月~
H22
3

H22
4
月以降

診療所

2740

 

2700

710

710

690

病院(200床未満)

2550

570

600

690

病院(200床以上)

2550

700*

700*

700*

*2回目以降の受診時は再診料が請求されるが、200床以上の病院の場合は、尿検査、糞便検査、創傷処置など18項目の検査項目を包括する「外来診療料」として請求される。再診料と比較して10円の差しかないため、実態としては200床以上の病院の方が価格は低くなる。

 

一方、この厚労省の方策を患者側からみると、人的資源や物的資源が確保されている病院の方が、割安な料金設定になっているわけであるから、患者はその意向とは逆に安いほうに行く可能性がある。

厚労省が病院の外来価格をコントロールしたことで、病院の外来枠(供給)は絞られ、一方で病院の患者(需要)が増加することによって、待ち時間が長くなってしまったわけである。価格が市場で調整されれば、病院での待ち時間は解消していく可能性はあるが、診療報酬として価格が決められているために、厚労省は解決のための苦肉の策として、ベッド数が200床以上の病院を初診でかかる際に他の医療機関の紹介状がない場合などには、病院が別途料金を自由に設定して患者に請求できるような仕組みを作った。つまり患者が「大病院に直接かかりたいのならば追加料金をお支払いください。軽い病気で大病院を直接受診すると高くつきますよ。」というように誘導したのである。ただ国民は、個人単位でみれば滅多に病院には行かないし、日々情報が溢れている中で保険者である各健康保険組合の広報誌などじっくり見ないため、そのような仕組みは徐々にしか浸透していない。

 

私自身の経験であるが、人間ドックを受けたら尿に血液が混じっており、早めに医療機関に診てもらった方が良いとの指示を受けた。

仕事柄、医療制度のことを考え直接に大病院に行くのはどうかと思い、車で10分以内に行ける泌尿器を標榜している複数の診療所の中から、インターネットで評判を見て近所の診療所を選んだ。そこで人間ドックの検査結果を見せ、検尿、問診後に超音波検査を受けた。検査をすると、「あった、あった。これこれ。」と尿路結石が見つかったとのこと。すぐに治療した方が良いとのことで、病院向けの紹介状を書いてもらい3,900円(総計13,000円の3割負担)を支払った。

次に泌尿器科を標榜している病院をインターネットで探した。車で30分以内に行けて、診療科に複数医師(外科系は手術をすることを考えると1名だけでは難しく、また多くの医師がいれば、症例数が多い≒経験の蓄積が大きい≒診療レベルが高い、という確率が高い)がいて、腎尿管結石の体外衝撃波治療ができる病院を選んで受診した。診察室で医師に紹介状を見せ、その内容に基づき医師がレントゲン検査の指示を出して、放射線技師によるレントゲン撮影の後に再度診察を受けた。医師からは、「レントゲンで見える結石は映っていない。尿潜血は体調によって出ることがあるので、様子をみて問題があるようなら再度かかってください。」とアドバイスされた。ちなみにその後は特に問題はなく、翌年以降の人間ドックの尿検査でも問題はなかった。病院の料金は、1,440円(総計4,800円の3割負担)であった。

 

結局2ヶ所の医療機関を受診して、検査の結果、結石破砕などをする必要もなく、「良かった、良かった。」と言いたいところだが、約4時間を要して、17,800円(自己負担5,340円、健保組合12,460円)の医療費を支払ったことについて考えてみた。

2つの疑問があって、第一に「なぜ1か所目の診療所で、誤診が起きたのだろうか?」ということ、第二に「医師一人で対応した診療所による請求が、放射技師と医師の2人の労力を要した病院の3倍弱の価格になるのか?」ということである。

 

第一の問題は、泌尿器科の診療所は、結果的に存在しなかった結石を「ある」と診断したことにあり、実際に「ある」ものが微小な場合に「ない」ものと見逃すことはあるかもしれないが、「ない」ものを「ある」と間違えることは理解しがたい。超音波装置の性能が悪いのか?医師の画像読影能力が低いのか?医師の視力が弱いのか?など、誤診の原因はいろいろと推測はできる。ただこの問題は、健康保険組合が医療機関から提出される診療報酬明細書を審査してもわからない。保険者は診断された病名に対して適切な検査、治療等が実施されていること、保険診療として適切であるかどうかを審査するわけで、そもそも最初の病名の診断が正しいかどうかは審査できるわけではない。患者が診療所にクレームを言わない限り表沙汰にはならず、問題は解決されないのである。

この一件に限らず、コンサルタントの立場で病院に関わるが、痴呆気味の院長がいたり(年功序列が厳しいため配下の医師等はそのことを正面切って言い出しにくい)、医師不足の病院で最近の薬の知識がなくて古い薬しか処方できない高齢の医師がいたりした。

果たして医師免許保有者の質は、充分に担保されているのだろうか。卑近な例で運転免許と比べると、運転者は視力や聴力などの状態が一定の水準に保たれている必要があり、定期的に更新のための適性検査を受けなければならない。一方で医師免許については更新がなく、知識、技能の水準の維持は勿論のこと、視力、聴力、痴呆まで含めた健康も、本人のプロフェッショナルな意識に任されているのである。病院の場合は、周辺をサポートする看護師や他の医師によって過誤や事故を防止することもできるが、医師が一人しかいないような診療所ではおそらく難しい。また日本の医療の特徴として自由開業制があり、医師は診療所を自由に開業できるのだが、医療法で定められている診療科ならば自らの専門に関わらず、基本的に自由に標榜できる。運転免許では第一種、第二種、大型、中型など個別に免許があるが、そのような制限もないのである。

第二の問題は、診療報酬の価格設定には、原価が充分に考慮されていないことによって生じている。例えば前述のように初診料・再診料は最近では見直しされてきているが、診療所と比較して相対的に固定費の高い病院にとっては不利な価格設定になっている。病院の経営者は固定費を回収するために、単価が低くても外来患者を多く診ることを考えたくなる事情もあるのである。

 

以上、整理すると、限られた医療資源しかない中で、(Price)原価が充分に考慮されていない公定価格で、(Product)診療の質は必ずしも担保されておらず、(Place)病院は供給規制[1]があって立地には制約があるために競争原理が充分に働かず、(Promotion)患者が医療機関を選択するための情報は充分に提供されていない、というのが日本の医療事情なのである。

厚労省の審議会などの議論をみると、課題については認識されており徐々にではあるが改善に向けて動いているようには見える。ただこの動きを速めるためには保険者が、医療機関の情報を加入者目線の独自基準で収集し、診療報酬請求書の内容を分析し、その結果に基づき医療機関を選別し、加入者に適切な受診行動の勧奨を徹底することである。そうすれば質の低い医療機関は徐々に排除でき、無駄な供給をなくせば財源に余裕ができ、真に必要なサービスの価格を適正化することもできる。本学部の卒業生が勤務している企業が健康保険組合を本気で強化し、保険者機能を発揮すれば日本の医療は随分と良くなるのではないだろうか。

 

以上、できるだけ経済学部卒業生らしい内容にするように努力をしたが、何を隠そう学生時代はネコ文二を実践しており、今回、経済学の基礎学力不足を改めて認識した。今更ながら当時、真面目に勉強していれば、今もう少し高い次元で医療問題を語ることができたのではないかと感じている。

 



[1]診療所については自由に地域を選んで開業することができる。