IMC株式会社  池田医業経営研究所

休業日:年末年始

対象地域:全国

お気軽にご相談ください

http://feed.mikle.com/

 · 

医療業界に求められるイノベーション

TBSテレビ『NEWS23』のメインキャスターである小川彩佳さんが、医師で起業家である豊田剛一郎さんと入籍していたというニュースをご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

豊田さんは、東京大学医学部を卒業後、国内の病院で臨床研修を受け、アメリカに留学し米国医師免許を取得。その後、コンサルティング会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、ヘルスケア業界の企業へのコンサルティングに主に従事、20152月にベンチャー企業である株式会社メドレーに参加し代表取締役医師に就任しています。同社のWebsiteによるとオンライン診療システムの市場において医療機関導入数がNo.1となっています。

豊田さんのように勤務医になった後、医療業界の課題に対して現場の一臨床医として限界を感じ、医療業界の現状を打破するために、コンサル会社にいったん身を置き、時機を見計らって起業をする医師が次々と現れてきています。

                           

経営の神様とまで呼ばれているピーター・ドラッカーは、著作『現代の経営』の中で、「企業の目的が顧客の創造であることから、企業には2つの基本的な機能が存在することになる。すなわち、マーケティングとイノベーションである」と述べています。

顧客の創造には、顕在的なニーズに対応するだけでなく、いままでとは違った価値を創造することで顧客を創り出していくことも不可欠になります。これがイノベーションです。

イノベーションと聞くと通常は「技術革新」を思い浮かべますが、①製品のイノベーション、②社会のイノベーション、③管理のイノベーションの大きく三つの領域があります。

製品のイノベーションはわかりやすいですが、消費者の行動や価値観を変える社会イノベーションはわかりづらいため、次のように説明しています。“たとえば、極北に暮らす人に対して冷蔵庫を販売するとしよう。これは一見非常識のように思える。しかし、食料が凍てつかぬようにするための道具として冷蔵庫を販売することに成功したとしても、冷蔵庫自体に技術革新はまったくない。しかし、顧客の新しい満足を創り出したという点で、これも立派なイノベーションのひとつになる。” 

なお管理のイノベーションとしては、例えばトヨタ生産方式の「カイゼン活動」や、セブンイレブンの商品を単品ごとに販売、仕入、在庫を管理する「単品管理」などがあげられます。

 

 医療業界は、相当以前から農業などと並び役所や業界団体などが改革に強く反対し、緩和や撤廃が容易にできない岩盤規制が存在する業界と認識されています。イノベーションが進みづらい業界と言えるでしょう。ただ世の中はデジタル技術などの進化により、図表1のように第四次産業革命まで進んでいます。

その核となる技術革新は、あらゆる事業・情報が、ネットワークを通じて自由にやりとりできる「IoT(モノのインターネット)」、集まった大量のデータを分析し新たな価値として利用可能になる「ビッグデータ」、機械が自ら学習し人間を超える高度な判断が可能になる「人工知能(AI)」、多様で複雑な作業についても自動化が可能になる「ロボット」などが挙げられます。

 

図表1 第四次産業革命の概要

 

 

 医療業界においては、未だに1970年代初頭からの第三次産業革命の「自動化」の途中段階です。医療機関内では手書きカルテが残っていたり、医療機関同士や薬局・介護事業者との情報交換は紹介状や処方箋を直接持参もしくはFAXによる送受信をしていたりします。医療機関のITシステム導入状況は、医療機関ごとの資金力やITリテラシー面での格差があるため、かなりばらつきがあります。また日本の医療は国民皆保険制度であり、保険請求や患者情報共有をするためのインフラは「落伍者を出さない」ことに主眼を置いた護送船団方式になっています。例えばレセプト請求について、当初は2010年度末までに原則としてオンライン請求に統一する方針でしたが、図表3のように未だに電子媒体や紙媒体でのレセプト請求が行われています。レセプトデータの電子化に対応していないレセプト作成用コンピュータを導入している医療機関のリースあるいは減価償却期間の更新時期までの猶予が、未だに続けられています。日本全体の課題である将来の生産年齢人口の減少、更なる人手不足への対策として生産性向上が必須と言われていますが、一部の医療機関経営者には受け止められていないようです。

 

 

図表2 点数表別レセプト請求状況(機関数(%))(令和元年6月処理(支払基金))

 

(出所)社会保険診療報酬支払基金 Website

 

政府の「未来投資会議」などでの方針を受けて、2018年度の診療報酬改定の目玉として、「オンライン診療料」が設定されました。起業する医師たちは、国内の他業界や海外から相当遅れている医療業界を変えようと考えているイノベーションの担い手であり、オンライン診療分野においては、メドレー以外にも医師が経営者となっているMRT、メドケア、インテグリティ・ヘルスケアなど複数社がサービス提供をしています。

ただ厚生労働省の2018年度改定検証調査によれば、新設された「オンライン診療料」の届出をしている施設は約15%、そのうちオンライン診療の実績があるのは約16%にとどまっています。主な要因は対象疾患を糖尿病や高血圧などに限定し、初診から6カ月以上の対面診療が必要というように算定要件を厳しくしたことにあります。

 

昨年615日に閣議決定された『未来投資戦略2018』や『規制改革実施計画』には、オンラインでの医療・多職種連携等の推進として、「患者の利便性の向上、医療職の働き方改革につながり、効率的・効果的な医療の提供に資するよう、服薬指導、モニタリング等を含めたオンラインでの医療全体の充実に向けて、次期以降の診療報酬改定、所要の制度的対応も含めて、ユーザー目線で、現状を更に前進させる取組を進める。」と記載されており、政府のイノベーションを進めようとする意気込みが感じられます。

ただ一方911日の(株)じほうの記事によれば、近畿医師会連合は98日の定時委員総会において、ICTについては効果的に利用すればより充実した医療に結び付けられると期待を示した一方、医療の根幹を揺るがすような制度の導入には断固反対すると打ち出しており、オンライン診療が喫緊の課題とし、離島・へき地以外では対面診療が原則であることを認識してICTを導入すべきだと提言しています。

 

医療業界にはイノベーションの機会が豊富にありそうですが、事業化のためのハードルはかなり高そうです。このままではオンライン診療分野に限らず医療の社会的なイノベーションについては、規制が少なく導入必要性の高い中国やインドなどが先行し、日本は取り残されていくのではないかと危惧します。