IMC株式会社  池田医業経営研究所

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コトラーのマーケティング4.0 前編

電車の乗客の半数以上がスマートフォンを見ている光景が、いつ頃からか当たり前になりました。スマートフォンなどのモバイル端末によるインターネットへの常時接続の普及によって、オンラインを無視したマーケティングはもはや不可能に近いものになっています。

私も外食場所やホテル、本や映画を選ぶ際など、インターネットで他人が投稿した評価内容を事前に確認するのが習慣になっています。多くの方々が、売らんかなの広告や専門家の意見よりも、ソーシャル・メディア上の複数の見知らぬ人たちの意見、いわゆる“集合知”を参考にしているのではないでしょうか。

 

「マーケティングの神様」「近代マーケティングの父」と呼ばれるノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院教授のフィリップ・コトラー氏は、その著書『Marketing 4.0: Moving from Traditional to Digital』(邦訳『コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則』)において、マーケティング4.0というコンセプトを示しています。『「marketing」という言葉は、「market-ing」と表記すべきで、マーケティングとは変化し続ける市場を相手にするものであり、市場の変化をとらえないといけない。顧客が、常時インターネットに接続し、情報をタイムリーに獲得したり、自ら発信し他の顧客に影響を及ぼしたりできる環境は、マーケティングの歴史で重要な転換点だ』というようなことを述べています。政治の世界でも、アメリカのトランプ大統領がTwitterを活用し、既存メディアや行政機構を通さず、直接国民に頻繁にメッセージを伝えるという手法を用いることによって、結果的に成功しています。多くの人々がオンラインで常時繋がっている状態が当たり前になったために、様々な業界で大きな変化が起きています。

 

『マーケティング4.0の「4.0」とは何だろう?』と疑問に思われる方々のために、4.0に至るまでの変遷を表にまとめました。詳細について説明します。

 

表 マーケティング1.04.0への進化・深化

1.0:製品主義

良い物を作れば売れる時代

2.0:顧客主義

ニーズのある人に対して訴求すれば、売れる時代

3.0:価値主導

「顧客にとって価値は何なのか」を考え、訴求しないと売れない時代

4.0:自己実現

顧客がそのブランドを通して、自己実現できることが重視される時代

 

マーケティング1.0は、「製品主義」とも呼ばれ、作った製品を潜在的な購買層に売ることがマーケティングでした。マーケティング1.0の時代は、4Pと呼ばれる「プロダクト」「プライス」「プレイス」「プロモーション」を組み合わせるマーケティングミックスが重視されていました。医療機関の場合は、サービスの価格(Price)は診療報酬制度に基づく公定価格(診療報酬点数)により決められていて、個別の医療機関が独自の価格設定はできません。医療機関がお客様に他の医療機関との違いを打ち出す方法は、医療行為を含むサービスの内容やその質(Product)、自宅や最寄駅から近い・遅い時間まで開業している等のアクセスの容易性(Place)、そしてそれを顧客にどう伝えるか(Promotion)になります。ただ価格に加え、保険診療の範囲や医療法の広告規制などのために、医療機関のマーケティングにはかなり制約があります。

 

マーケティング2.0は、「顧客主義」や「消費者志向」と呼ばれています。1.0の時代を経て、多くの製品やサービスがコモディティ化(普及が進み、差別化が困難になった状態)したため、“顧客が望む”製品やサービスを開発し提供する段階です。

そのような変化の中で重視されるようになったのが「STP」です。Sはセグメンテーション (市場細分化)Tはターゲティング(ターゲット選定)Pはポジショニング(ターゲット顧客の頭のなかに、自社製品について独自のポジションを築き、差別化イメージを植えつける活動)です。

医療機関の場合は、年齢層や性別、罹患している疾病、軽症者から重症者まで、様々な患者がいます。そのすべての患者に満足のいくサービスを提供するのは難しく、経営資源(例えば医師の専門性や医療機器等)には限度があるため、市場あるいは顧客を絞り込み、集中的に経営資源を投入することによって効果を上げ、他の医療機関との違いをアピールすることが必要になっています。自院の得意分野に“機能分化”し、自院で対応できない機能は他の医療機関等と“連携”することで、顧客の希望をトータルで叶えることがマーケティング2.0と言えるのかもしれません。

 

マーケティング3.0は、2010年頃からコトラー教授が提唱を始めたもので「価値主導型」のマーケティングです。類似の商品やサービスが飽和状態の時代、購買意欲を引き出すために、顧客の内側にある「社会をより良くするという精神」に訴えかける手法がトレンドとなりました。企業が利益を生み出すことも、顧客が感情や精神を満足させることも、私たちが生きる地球を良くする価値につながるものが求められるようになり、CSR (Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の取組にスポットが当たるようになりました。マーケティング3.0の段階にある企業は、「3つのP」のために働かなければならないとされ、その3Pは、「利益」(Profit)、「人的サービスの質」(People)、「地球」(Planet)になります。

たとえばアメリカのコーヒーチェーン大手スターバックスが、79日に2020年までに世界中の店舗で使い捨てのプラスチック製ストローを廃止すると発表しました。ストローなどの小さいプラスチック製品はリサイクルが進まず、海洋汚染の原因となっていると指摘されていることを受けての措置のようです。この新しい取り組みに対して、インターネット上では「応援したい」などと賛成の声が多数あがっているようです。アメリカのMcDonald'sも、イギリスとアイルランドで9月よりプラスチック製ストローから紙製ストローに順次切り替えると発表しています。このような企業の取り組み姿勢(価値観)に顧客が共感し、顧客が固定客化すれば、顧客が企業にもたらす価値は増大していきます。

20172月号で紹介しました北海道の札幌市を主な拠点とする渓仁会グループは、2006年からCSRCorporate Social Responsibility)活動に取り組み毎年レポートを出しています。医療・介護の事業者としては先駆的で、「植樹活動」、「地中熱」を利用した冷暖房システムや自然エネルギーを利用した「雪冷房システム」の導入など、地域の特性を活かした独自のエコ活動を展開しています。地域に根付いた環境保護活動を継続しつづけることと、広めること、そして未来につないでいくことを目指すと宣言しています。

マーケティング3.0に取り組んでいる医療機関はまだまだ少数派だと推察します。次号ではその1歩先を行くマーケティング4.0について詳しく説明します。